最終回 柿農家インタビュー
鳥取県東部に位置する八頭郡八頭町は、柿の名産地です。
特に幻の甘柿といわれる花御所柿(はなごしょがき)の産地として知られています。
そしてこの柿畑の風景は、日本風景街道に「新因幡ライン」という名称で登録されています。
この特集では春夏秋冬の年4回に分けて、柿農家の仕事を体験させていただき八頭町にある柿畑の風景、
そして柿農家の思いについてお伝えします。
最終回は、岡崎さんにインタビューさせていただきました。
柿畑を残すこと、次の世代について、ご家族との関係、来年度の展望など聞かせていただきました。
■前回までの記事
第一回 受け継いだ果樹と景観を残す
第二回 柿農家の見据える先
第三回 柿の農繁期に聞く 柿畑を残すとは
クオリティを上げればどこでも胸を張って販売できる
岡崎さん:花御所柿は例年だと用意できる収穫量が今年は取れませんでした。本年度は例年の60~70%ぐらいの収穫量となりました。生産者の中には、お歳暮の贈呈用をお断りする方もいたようです。春先の遅霜の被害が原因だと思います。
柿は、へたスキの部分が浅いか深いか、そして果肉に傷があるか、ないかの4種類に分類しています。ふるさと納税は、極力へたスキがない柿を選果して、平箱に並べて置いておいて3日ぐらい様子を見ます。時間が経つと状態が変わるものがあるので。本年度はへたスキが多く大変でした。
――岡崎さんは果樹を販売する独自の販路を持っている印象があります。
岡崎さん:地元に向けても販売していますが、県外にも販路を持っています。自分の商品のクオリティを上げることで薄利多売にならず、県外や都会で胸を張って販売することができます。
過去にはより良い商品を届けるために、緩衝材を変えたことがありました。そんな風に年々改良していますが、今年度は岡崎ファーム特製出荷用ダンボールを作りました。今まではダンボールに生ものや天地無用のステッカーを貼っていましたが、それらが印字されたダンボールをデザイナーにお願いして作ってもらいました。白とオレンジの2色刷りで見た目も整って見えるので満足しています。そして、来年度はリーフレットを作ろうと考えています。
――古い木と新しい木からできる柿の味は、違うのでしょうか?
岡崎さん:違います。古い木の方がおいしいけど見た目は悪いですね。古い木の方が味が濃いのは確かだと思います。
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僕らの世代でどうにかしようや!っていう話し合いをしたい
――花御所柿は八頭町の特産物ですが、作られている農家さんは限られています。どうやったら生産量が上がると思いますか?花御所柿を生産している農家さんが増えれば生産量もあがるのでしょうか?
岡崎さん:面積を増やすことと、作っている人を増やすことを同時にやっていく必要があります。花御所柿の生産者はいるのですが、高齢化のため柿畑の面積が広くできない。特に花御所柿は、収穫するときの時期が寒いことと、人が足らないことが量を作れない原因だと思います。八頭町の花御所柿をアピールするためには、たくさんの量を作らないといけないと感じています。
――量を作ろうと思うと、人を増やさないといけない。生産量=人数なんですね。岡崎さんもこれ以上柿を作る量を増やすことは無理ですよね?
岡崎さん:まだいけると思います。もし人を雇えば多く作れるし、収穫する人ももっと必要になると思います。面積を増やすと、収穫する人数も増やす必要がありますね。でも僕は、自分の生活ができたらいいから。自分の時間も削りたくないし、仕事ばっかりにもなりたくないんで。
八頭町に元々あった果樹園を残していきたい気持ちの方が、なんだか自分は大きいです。地域をよくしていきたい。自分の考えで先頭に立って、やっていくだけですね。協力性よりもまず自分が自立していかないと。たくさんの人がいろんな考え方でやっても、まとまらないなと感じがします。でも、町としては一つのビジョンでやっていかないといけないとは思うんですけど。
――岡崎さんに引っ張っていってもらいたいから、しっかり売り上げを上げてもらいたいという気持ちが個人的にはありました。ちょっと見当違いだったのかもしれません。
岡崎さん:田舎の地域で農業をするには、ある程度ボランティア精神がないと難しいかもしれません。僕は、他の農家の方や自分の村の人が困ったら助けるつもりではいます。自分の村は動ける人が少ないから、いろんなところの雪かきをします。こういった心持ちは八頭町の農家として、売り上げを上げるよりも大事なことなんじゃないかな。年末の大雪の時も、村中を「オラー」って雪を掻きました。でも近所の人が困っていたら助けたいし、そういう地域に生まれてきましたからね。実際に雪かきができなくて困っている人もいるし。
養蜂家の知り合いに、蓮華の種をもらって蓮華米を作ったら近所の農家さんも同じように蓮華を撒いてくれた。肥料代も安く上がりますよって僕が教えてあげたんですけど。自分が花が咲くときれいだと感じてやったことが、広がってうれしくなりました。周りの農家さんもいいと感じてくれたんだと思います。エコファーマーを取ったのも、除草剤やってないし、出来るだけ有機肥料を使いたいし、農薬も減らしていきたいという昔からの思いがあったからこそです。昔から畑にたい肥を入れたり工夫していました。
お金も必要だけど信頼性も必要だと思います。この土地と人たちと調和していきたい。僕は個人単位で農業をしているので、自分が作るものの品質や作り方にはこだわっていきたいです。
僕の柿を購入してくれるお客さんともいい信頼関係ができていると思います。電話やメール等で県外のお客さんともお話をする機会があります。コロナ禍という状況もあり会ったことがないお客さんも多いですが、しっかり対応できているとは思います。「ありがとな」って声が聞こえてくる、これぐらいの忙しさが心地いいです。
「今から送ります」「どんなものが欲しいんですか?」「もし、鳥取に来たときは岡崎ファームに寄ってくださいね」って会話できることが重要なんじゃないかなと考えています。「つながり」が大事だと思います。実際スケボーやスノボーのつながりでスケボーパークを作る活動に加わったりしています。
いいところだと思うよ、八頭町!めっちゃいいところだと思うよ。
――スケボーを熱心にやってたことは、柿農家に活かされているんですか?
岡崎さん:スケボーの影響かどうかわかりませんが、先のことを考えてあげたいと思います。小さい子のこととか。ふるさと納税の寄附金も次の世代に上手に使ってあげて欲しいです。
八頭町の空き家を何とかしたいのも、小中学生の親世代の僕らが今動いてあげないと、子どもたちの世代が大変になってしまう気がします。自分たちがそこまで考えなくてもいいだろうっていうのは、僕は良くないと思う。自分たちの世代がどうにかしてあげないと、これから先の世代がすごく苦労すると思います。自分たちが生きている間に自分たちのするべき分は苦労してあげないと。農地もそうだと思います。僕はできるだけ集約していって、離農する人の園はいい園と悪い園に分けて、悪い園は木を切って新しく植え替えて先の10年後に収穫できるようにしていきたい。空き家や農地もどんどん循環させていって、ダメなものは壊していいものは使って、人が減ることだけ考えず、少しでも人が増えるように考えていくほうがいいんじゃないかな。
今いる子どもたちも20年後八頭町に何にもなくなったら、出て行ってしまうと思います。景観も悪くなって農業もすたれて、耕作放棄地だらけになって人がいなくなって、空き家だらけになったら誰も住んでくれない。そんな風にリアルに考えたら、僕らの年齢で動いてあげないと。30代40代の僕らの世代でどうにかしようや!っていう話し合いをしたい。一般の人や役場の人も含めて。「今どう思ってる?」って。「会社と家との往復だけで考えてないですか?」って。そうじゃなくって地域とかこれからの八頭町について、ちゃんと考えていかなくてはいけないと思います。
――小中学生や高校生の方が八頭町を楽しんでるような気がします。毎日釣り道具を持ってどこかに出かけている子や列車を駅に見に来て興奮している子を目にすると、とても楽しそうに見えます。
岡崎さん:いいところだと思うよ、八頭町!めっちゃいいところだと思うよ。
――もし、岡崎さんが新規就農者として柿や果樹の知識が全くないとするなら、まず何から始めますか?誰かに弟子入りするとか?
岡崎さん:自分は祖父が柿農家をやっていたんですが、見て覚えろって感じでした。でも、祖父のやり方ばかり見ててもいけないんじゃないかと思っていろんな果樹園も見て回りました。どうやってやってるんだろうな?って。そうしたら、本当にみんなやり方が全然違って驚きました。自分でやってみて、いろんな人の作業を見ながら覚えるんだと思います。
――事業費がたくさん使えたらどんなことがしてみたいですか?
岡崎さん:でっかいトラクターが欲しい。無駄に置いときたいよね(笑)。もしもの時は、トラクターにバケットを付けて雪かきをしてあげたい。町の除雪機もいろんな場所に行かないといけないから、すぐに行き届かないことも多いので代わりにやってあげたいですね。町に代わってより地域の方が除雪をするように、今後なってくるような気もします。
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仕事をしすぎないことには気を付けています
――岡崎さんのご自身の家族とのかかわり方について教えて下さい。
岡崎さん:仕事をしすぎないことには気を付けています。子どもに言われるので。「あんまり仕事ばっかり行かんでな!」って言ってきて「嫌だ!」って言い返したりしてます(笑)。娘は、仕事ばっかしてると思ってるみたいです。たまに若桜町に若桜鉄道で娘と2人で行ったりしてます。子どもと遊んであげないといかんかなっと思ってます。家のことをしながらね。
――岡崎さんの娘さんは岡崎さんのどこまでが仕事で、どこまでがそうじゃないのかがわかってるんですか?
岡崎さん:常に僕が作業場にいるもんだと思ってるかもしれません。わかってないね(笑)!自分が農業をやって農業っていいなって思ったのは、自分の子どもができたときに近くに居れることです。何か保育園であった時もすぐ行ける融通が利くこともいい点ですね。共働きなら家事も半々にしないと、本当の意味で共働きじゃないと思います。
その代わり、友だちと遊んだりもするんで。ご飯食べに行ったり、クレーンゲームしたり。先日クレーンゲームで『赤ちゃんマン』のぬいぐるみを一発でとりました!いろんな業種の人と話して、自分に取り入れていきたいです。
――来年度の展望を最後に教えて下さい。あと今年度の反省は活かされそうですか?
岡崎さん:今年は防霜用のファンの設置、輝太郎用の果樹棚を3反分、あと1反西条柿を切って花御所柿に植え替えようと思っています。あと認定農業者を取得するつもりです。
反省は活かすよ!柿の木にたくさん実をつけたのは、良くなかった気がします。そのためか、ちょっと柿の実が例年より小さかった気がします。あと、40歳までにもう一つ小屋を建てたいです。世田谷ベースみたいな遊び場を(笑)。余裕ができてきたら大工の友だちに事務所も作ってもらうつもりです。農機具を置いたり二つの場所で出荷調整や箱詰めしたりすることも考えています。そんなことが出来るようになったら面白いですね!